開発に7年かけた、スイーツのようなおいしさのイチゴ

【ベリーツ】

農林水産省の統計によると、日本には約300種類ものイチゴの品種があるという。この数は、世界の半数以上にあたるという説もある。そんなイチゴ大国の日本でにわかに注目を集めている品種がある。それが、大分県で生まれた『ベリーツ』。2017年に品種登録出願がされたばかりで、流通している数は限られているが、その味には定評がある。

『ベリーツ』を求めて訪れたのは、大分県の南東部にあり宮崎県とも接する佐伯市の生産者、樋口勝典さん。ビニールハウス内には高設栽培された『ベリーツ』がたわわに実っている。樋口さんは『ベリーツ』の名前ではなく、『大分6号』と呼ばれていた時代に栽培をはじめた3名のうちの一人。作付け面積は55aで大分県中南部では最大規模だ。「1年目は思ったようなイチゴに育たず、大失敗の出来だった」と当時を振り返る。それでもビニールハウス内の温度や湿度などを試行錯誤しながら、年々品質が高まっているという。

『ベリーツ』は、大分県が8年もの時間をかけて開発したオリジナルのイチゴ。2017年から販売開始となったまだ新しいブランドで、甘さと程よい酸味に芳醇な香り、鮮やかな赤い色が印象的だ。こうした特徴から“ストロベリー”と“スイーツ”の造語で『ベリーツ』と名付けられた。キャッチコピーは“スイーツみたいなストリベリー”。また、イチゴの需要が最も高くなる12〜2月にかけての収穫量が多く、実が硬めのため輸送に強いだけでなく、気温が上がる春先でもしっかりとしていることは、生産者にとって利点となっている。

樋口さんを訪ねた1月上旬は収穫の最盛期でありつつ、次のシーズンに向けた苗の育成期でもあった。「毎年12月くらいから次シーズンの苗を準備します。そして、9月に植え付けを終え、11月中旬から収穫に入ります。植え付けの際、株間を20cmくらいにする生産者が多いのですが、私は23cmくらいにしています。その方が株のストレスが減ると思うからです。ただ、これも気温や湿度、水分調整など試行錯誤していることのひとつです」と樋口さん。生まれて間もない品種だけに、いろいろ試しながら『ベリーツ』の特性を理解してる途中だという。

「人の口に入るものですから、安心・安全が第一。そのため農薬はほとんど使っていません。先のこと考えすぎず、今は味を安定させて、ある程度の出荷量を確保すること」。今後の目標を聞くと樋口さんはこう答えた。ほかの有名ブランドイチゴのように育てるのではなく、目の届く範囲で栽培を行なっていくという。樋口さんは『ベリーツ』をより知ってもらうために大分県や主要消費地の京都の小学校に向けて、オンラインで食育活動も行っている。「私たちが予想できない質問をしてくるので大変です」。そういう樋口さんの顔は笑みがこぼれていた。

樋口勝典さん

27歳で実家のイチゴ農家を引き継いだ。15年のキャリアを持ちながら「いまだ勉強中」と話す。『ベリーツ』は甘味や香りが楽しめる常温がおすすめという。